亀の子束子をご愛用あるいは支えて頂いている皆さまのもとを訪れて、さまざまなお話を伺う
「亀の子訪問記」。
今回、日本で珍しい糸を使って帯や小物を作られる染織家「Textile COCOON」の西川はるえさんに
お話を伺いました。
神奈川県横須賀、海の近くにあるご自宅を職場として珍しい繊維を使い作品を作る、染織家の西川さん。
ふとインスタグラムで西川さんの作品を拝見し、作品の織りなす糸の美しさ、静かな中にある力強さに惹かれ、もっと作品を見てみたいと夢中になっていました。
さらに、作る工程で亀の子束子を使って下さっていると知り、早速取材依頼しお会いするご縁を頂きました。
旅先のネパールで出会った繊維、それがメインで使われているイラクサ(アロー)と大麻(ヘンプ)。
棘を持つイラクサの収穫は容易でなく、刺さるとその後数時間は痛痒さとの戦いになるそうです。
現地の方の中には、素手で収穫するたくましい人もいるらしく、西川さんは「え!素手ですか!って感じです」と、興奮気味でその写真を見せてくださいました。
左:※1
真ん中:奥/イラクサ、手前/大麻
右:紡いだイラクサ
ネパールの森林で収穫できる繊維の量は多くはなく、イラクサの場合は乾燥状態で一日(一人)2キロに
満たないほど。大麻についても1本の茎から10g程度の繊維しかとれないため、どちらも多くの時間と手間をかけて作られた糸です。
ネパールから仕入れた糸を、色や質、太さなど経糸(たていと)にするのか、帯用か小物用か選別します。
選別する作業は、時間がかかり気の遠くなる作業ですが、仕上がりの美しさを大きく左右する工程として大切にされています。
イラクサの繊維はウールのように柔らかく、絶妙な量の繊維を引き出し、スピンドルによって紡がれます。
(写真左:スピンドル)
糸を紡ぐ職人も、年々少なくなっており、いつまでネパールで作り続けてくれるのか…と、西川さんは話していました。
染織家は国内にたくさんいらっしゃいますが、イラクサと大麻をメインにした染織家は西川さんだけ。
このイラクサと大麻の糸が、ネパールから運ばれ西川さんの手でより美しい姿に変化していきます。
繊維を紹介して頂いた後、藍染をする作業場に案内してもらいました。
木の蓋を外しながら、明るく「うちのアイちゃんです!」と見せてくださったのは、琉球藍。
すでに染めて乾かしてを10回繰り返している繊維が上に干されています。
左から、イラクサ・大麻・絹。
「藍は微生物の働き(発酵)なので染まり具合はその時で変わってきます。その状態で染める回数も変わります。」
「アイちゃんが機嫌悪くて仕事したくないという時があるんですよ。」
と、まるでアイちゃんを仕事仲間のように擬人化して話される西川さん。
染織家の仕事に対しての愛情や、熱い想いを感じました。
染めた後、経糸(たていと)にする糸は、ふのり(海藻)を使いケバや織る際の糸切れを防ぎます。
左は経糸用で、ふのりを塗った糸、右は緯糸用ののり付けしていない糸。(藍染めの具合は異なっています)
のりを使っているか否かで、ケバの状態と、糸のかたさが違います。
真ん中の写真は西川さんが使っているふのり。水でふやかして煮てトロトロになったところに糸を浸けてのり付けします。
機織り機に糸をかける前にするのは整経作業。木の管に巻いた糸を4本ずつ引き、経糸の長さと順番を整えていきます。
この時に響く、ガラガラガラと木の管が回る音がとても心地良く、印象的でした。
整経作業を繰り返して機織り機に糸をセッティングし、準備完了。
織り始めるまでに、途方もない工程がありますが、美しい仕上がりになる大切な工程。
初めの選別作業で経糸、緯糸を分け仕上がりを想像して糸を整え、機織り機で一本一本、大事に織っていきます。
「東京など、都会で人工物に囲まれた生活をしていると、人は「自然」を感じさせるものに惹かれ、触れたくなるのかなと思います。それは少し不揃いであったり、揺らぎがあったりするもの。そういうものを求める人のところに自分の作品が行くのかなって。
ただ、『自然』を感じさせるもの、というのは大変に手強く難しくて。天然の素材を手作業で作っている、というだけでは足りない。逆説的でもあるのですが、自分の意思でコントロールしながらやり切る、ということを心がけています」
と、西川さんは話されていました。
糸も、人の手で紡いでる為に太さがまばらで切れやすいそうです。
こういう糸は機械では織ることが難しいため、やはり人の手で緻密な調整をしながら織られています。
最後に、織りあげた布は余分な染料、経糸ののりを落とすためにしっかりと洗います。
ここで亀の子束子の登場です。
亀の子束子と一緒に使われるのはムクロジ(ソープナッツ)。果皮に天然のサポニンが多く含まれ、お湯や水を含ませ振ることで細かい泡が立ち天然の石鹸として使用できます。
「かなり洗いますよ!3回~4回、お湯につけて何回か変えて、こすって表裏2回。これを繰り返してしっかり落とします。」
のりが残っていると帯がカビてしまいますし、染めた藍が移らないように何度も洗います。
「実は、他のたわしを使ったことないんです。他に選択肢はなく、一筋でやらせて頂いています!」
「亀の子さんのたわしは、すごく長く使えるんですよ。」
密度の濃い亀の子束子が、布の繊維の間に入り込みのりを落とすので、洗う工程では、亀の子束子は必須アイテムだそうです。
この亀の子束子は約5年ほど使われているとのこと。
美しい仕上がりにする数ある工程の中で、亀の子束子がお役に立てていることがとても嬉しかったです。
染織家として独立して活動を始めた2002年から数年は、日本では馴染みのない繊維を使った商品をなかなか受け入れてもらえず試行錯誤を繰り返していた西川さん。
ある時、お客様から「この布を帯にしたい」と提案を受けてから徐々に和装の帯を中心にした制作で仕事が確立するようになったそうです。
「一個人が、手仕事で日々食べていくというのは精一杯ですし、自分の嫌な面や世の中の理不尽なところとも向き合い続けていくことでもあります。」
「しんどい事の方が多いけれど、自分の作ったものが誰かの手に届いて、その方自身のものになって、大切にしてもらえる。それは作り手にとって『悦び』であり、それを味わえることは幸せなことかもしれません。」
お話をする中で、西川さんの強い意志とユーモアあふれるセンスに魅力を感じただけではなくこれからの日本の手仕事を盛り上げる職人のお一人だと感じました。
話題の尽きない楽しい時間を過ごさせて頂きました、ありがとうございました!
▼『Textile COCOON』
https://textile-cocoon.com/
・取扱店一覧
https://textile-cocoon.com/tagged/shops
・今後の出展情報
https://www.president.co.jp/nanaoh/article/information/hatsujitaku/
襷 tasukiをクリックすると、ご覧いただけます。
▼西川さんの作品と個展の様子
▼写真提供
・THE YARD 2018AW
http://the-yard.jp/look/2019-autumn-winter-5-2/
・桜沢エリカofficial blog「ちょっとお茶でも」
https://ameblo.jp/erica-sakurazawa/entry-12460333813.html
※1 “NEPALESE TEXTILES” Susi Dunsmore
British Museum Press より
登場した亀の子束子
亀の子束子3号
定番サイズの1号よりやや大きめ。大きな鍋や浴室等広範囲を洗うのに便利です。